マンションと法(第十三歩)

滞納管理費

前回の記事では,銀行口座の差押え等の一般的な強制執行手続を見ましたが,区分所有法59条では「区分所有権の競売の請求」が規定されています。この制度は,区分所有者を区分所有関係から「終局的」に排除する制度(これに対して,使用禁止の請求(区分所有法58条)は,区分所有者を区分所有関係から「一時的」に排除する制度です。)であり,滞納管理費等の回収を直接の目的とするものではありません(紙面の関係で詳細は割愛しますが,59条競売には民事執行法63条は適用がないと判示した東京高判平成16年5月20日や,区分所有権が譲渡された場合における59条競売による競売手続の可否について判示した最判平成23年10月11日をご参照いただくことで,59条競売の制度趣旨の理解が深まると考えています。)。

しかし,滞納管理費等に優先する債権がある等の理由によって,滞納者に対する先取特権の実行(区分所有法7条)や債務名義に基づく強制執行によっては滞納管理費等の回収を図ることができない場合には,滞納者(区分所有者)を区分所有関係から終局的に排除した上で,新区分所有者から滞納管理費等の支払を受けることができる(買受人である新区分所有者は,区分所有法8条によって,未払の管理費等の支払義務を承継します。)点で,59条競売の制度は,事実上滞納管理費等の回収に資する制度といえます。

そのため,滞納額,滞納期間,交渉経緯等に照らして,区分所有法59条の要件を満たす場合には,区分所有権の競売の請求によって,滞納管理費等の回収を図ることが可能となります。

なお,区分所有法59条の要件に関連して,管理費等の滞納が共同利益背反行為に当たる理由として,東京地判平成19年11月14日は,「マンション等の共同住宅において,区分所有者の共有に属する共用部分を維持管理していくために,所定の管理費や修繕積立金等を区分所有者が負担することは当然であり,これは区分所有者の最低限の義務であるといっても過言ではない。一部の区分所有者がその支払をしない場合,その負担は他の区分所有者に掛かることとなり,不公平が生じ,最終的には共用部分の維持管理が困難となる事態を招くことが想定される」等と判示しています。当該判示については,マンション管理において管理費等が持つ重要性を再認識させられます。

また,長期間の管理費等の不払を理由として区分所有法58条に基づく使用禁止請求ができるかという点について,大阪高判平成14年5月16日は,「専有部分の使用を禁止することにより,当該区分所有者が滞納管理費等を支払うようになるという関係にあるわけではな」い等と判示して,上記請求を認めませんでした。この裁判例は,管理費等の滞納と使用禁止請求(区分所有法58条)との関係のみならず,差止請求(区分所有法57条)との関係性についても判示しており,管理費等不払と区分所有法に基づく差止請求,使用禁止請求及び競売請求との関係性を整理する上で参考になるものと思います。

滞納管理費等の回収手段としてよく議論に出てくるものとして,ライフラインの供給停止や,滞納者の氏名の公表があります。これらの手段は,滞納者に対して事実上の制裁を課すことで滞納管理費等の回収を行うことを目的とするものと考えられます。

しかし,上記いずれの手段についても,自力救済禁止の原則に反するおそれがあることに加え,対象者の日常生活に与える影響が大きく,また,対象者に対する名誉棄損にも該当し得る行為ですので,控えるべきと考えます。実際にも,上記手段を講じた管理組合や理事長の不法行為責任が認められたケースもあります。

管理組合としては,このような事実上の制裁を課す方法での滞納管理費等の回収を図るのではなく,これまでにご紹介した法的手段に基づいた回収を徹底すべきと考えます。

今回の記事をもって管理費をめぐる諸問題は一旦終了となります。皆様には,マンション管理において管理費等が持つ重要性を再確認していただくとともに,これまでの記事が管理組合における滞納管理費等の確実な徴収の一助になれば幸いです。

(弁護士 豊田 秀一)