マンションと法(第十歩)

管理費等の滞納が生じた場合において、管理組合が、事前に定められた手順に沿って督促等を行ったとしても、必ずしもその回収が実現するとは限りません。そして、管理費等の滞納状態が継続するにもかかわらず、管理組合が適切な対応を講じない場合には、管理費等の請求権は消滅時効によって消滅する可能性が出てきます。

そのため、長期にわたって滞納期間が継続している場合には、管理組合は消滅時効の点にも留意しながら、裁判手続を利用した回収方法を検討することになります。

この点、管理費等の債権の消滅時効について、民法166条1項1号は、「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年」で完成すると規定しています。そして、債権者である管理組合は、管理費等の支払期限が到来すれば権利を行使することができることを当然に知ることになると考えられますので、管理費用の債権は、管理費等の支払期限から5年で消滅時効が完成することになります。なお、民法改正前は、管理費等の債権は定期給付債権(改正前民法169条)に当たるとして、消滅時効は5年と解されていましたが、民法改正によって旧169条は削除されましたので、今後は民法166条1項1号が管理費等の債権の消滅時効の根拠規定ということになります。

以上の消滅時効の点を考慮しつつ、管理組合が滞納管理費等の回収を行うに当たって選択し得る法定措置ですが、大きく4つの手続があります。具体的には、①民事調停、②支払督促、③少額訴訟、④通常訴訟の各手続であり、管理組合は、それぞれの手続のメリットやデメリットを考慮して、滞納管理費等の回収を図ることになります。

また、管理組合が上記法的措置を講ずるに当たっては、事前に管理組合内部での手続を踏む必要があります。

具体的には、管理者(理事長)が、その職務に関し、区分所有者のために、原告又は被告となる場合には、規約又は集会の決議が必要となります(区分所有法26条4項)。

ただ、実際には、滞納管理費等を回収するための法的措置を講ずるに当たっては、総会決議ではなく、理事会決議で対応することが多いといえます。すなわち、管理組合が滞納管理費等の回収を機動的に行うために、各マンションの管理規約においては、標準管理規約60条4項を参考にして、「理事長は、未納の管理費等及び使用料の請求に関して、理事会の決議により、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行することができる」という規定が設けられているケースが多いと思います。この場合には、総会の決議を経なくとも、理事会の決議によって、管理組合は法的措置を講じることが可能となります。

以上のような管理組合内部の手続を経て、管理組合は法的措置を選択することとなりますが、その際は上記4つの手続(①民事調停、②支払督促、③少額訴訟、④通常訴訟)の特徴を把握した上で、適切な対応を講じる必要があります。

次回は、各手続のメリット、デメリットを踏まえた手続選択を見ていきたいと思います。

(弁護士 豊田 秀一)