マンションと法(第二十三歩)

■役員の就任に関する裁判例

ここ数回のテーマとして扱ってきた管理組合の役員について、最後に、役員の資格に関する最近の裁判例をご紹介したいと思います。

前回と同様、役員の就任をめぐる問題に関する裁判例ではありますが、今回取り扱う裁判例(東京高判平成31年4月17日)は、規約において役員候補者として選出されるためには理事会の承認が必要とする定めを設けた場合に生じる問題点となります。
事案の概要は、次のとおりです。マンションの総会において、管理規約を改正して、「立候補者が役員候補者として選出されるためには、理事会承認を必要とする」という条項(以下「本件改正条項」といいます。)が新たに設けられました。その後、区分所有者が、管理組合に対し、役員立候補の届出をしたところ、理事会において同人を役員候補者として承認しない旨の決定がなされました。そのため、同人が、管理組合の役員らに対し、上記決定は、役員立候補権を侵害するものとして、損害賠償請求を提起しました。
この裁判例では、「本件改正条項……の趣旨が、承認をするかどうかについて理事会に広範な裁量を与えるものであるとすると、本件管理組合の規約において、一方では組合員である区分所有者に役員への立候補を認めながら、他方で特定の立候補者について理事会のみの判断によって、立候補が認められず、集会の決議によって役員としての適格性が判断される機会も与えられないという事態が起こり得るから、役員への立候補に関して区分所有者間の利害の衡平を害するものであって(同時に、選任者である区分所有者の議決権の行使を妨げるという意味でも、区分所有者間の利害の衡平を害することになる。)、区分所有法30条3項に反するものといわざるを得ない。そうすると、本件改正条項は、明示されてはいないものの、成年被後見人等やこれに準ずる者のように客観的にみて明らかに本件管理組合の理事としての適格性に欠ける者(なお、マンション標準管理規約36条の2が、本件決定後である平成29年に設けられた規定であるとしても、そこに規定された事由は、客観的に役員としての適格性に欠ける場合の例示としては適切なものであるということができる。)については、理事会が立候補を承認しないことができるという趣旨であると解され、その限度で本件改正条項は有効であるというべきである。そして、理事会が上記の裁量の範囲を逸脱して、立候補を認めない旨の決定をした場合には、それによって、少なくとも、当該立候補者が有する人格的利益(役員としての適格性の是非を、集会において区分所有者によって、判断されて、信任・選任されるという利益)を侵害するものとして、違法性を有するものというべきである。」と判示しました。
この裁判例判示した上記部分については、①区分所有法30条3項を理由に、理事会は、規約の趣旨の範囲内で役員候補者の立候補の可否を決めることができるとした点と、②立候補者が有する人格的利益(役員としての適格性の是非を、集会において区分所有者によって、判断されて、信任・選任されるという利益)を認めている点が重要といえます。
マンションでは多数の居住者が存在し、その有する価値観も多種多様ですので、これらをどのようにして調整するのかが重要になります。この調整の際には、規約で定めれば何でも解決できるわけではなく、「区分所有者間の利害の衡平が図られ」(区分所有法30条3項)なければならないという点には注意が必要であることを再認識させられる裁判例だといえます。

(弁護士 豊田 秀一)