マンションと法(第十一歩)

前回は管理組合が滞納管理費の回収に当たって法的措置を講じる場合に考えられる4つの手続をお伝えしました。

そこで,今回は,この4つの手続(①民事調停,②支払督促,③少額訴訟,④通常訴訟)のメリット,デメリットを踏まえた手続選択をみていきたいと思います。

1つ目の①民事調停ですが,これは裁判所の調停委員が当事者の間に入り,お互いが譲歩して,話合いによる解決を目指す手続です。

メリットとして,手続費用が安いこと,話合いによる柔軟な解決が可能であること,話合いによる解決ではあるものの調停が成立した(双方の合意が調った)場合には調停調書が作成され,その約束が守られなかった場合には強制執行が可能になることが挙げられます。

他方,デメリットとして,あくまでも話合いの場ですので,滞納者との間で話合いの余地がない場合には解決に至らないことから,時間を掛けたものの,結果的に解決に至らないという事態が生じ得ることが挙げられます。

2つ目の②支払督促ですが,これは債権者(管理組合)が申立てをすると,裁判所書記官が書面審査を行い(相手方の言い分を聞くことなく),その請求に理由があると認めた場合に,支払督促を発する手続です。

メリットとして,印紙代が通常訴訟の半額であること,書面審査のため出頭の必要がなく,手続が煩雑ではないことが挙げられます。

他方,デメリットとして,相手方から異議が出た場合,通常訴訟に移行することになるので,結果的に解決までの時間が長引くこと,公示送達が利用できないことから滞納者が所在不明の場合には利用ができないことが挙げられます。

3つ目の③少額訴訟ですが,これは60万円以下の金銭の支払を求める訴えについて,原則として1回の審理で紛争解決を手続です。

メリットして,原則として1回の審理で解決まで至ること,滞納者がどこに居住しているかにかかわらず,マンションの所在地を管轄する簡易裁判所に訴えを提起することができることが挙げられます。

他方,デメリットとして,60万円以下の請求という訴額の上限があること,年10回までしか利用できないこと,相手方が所在不明の場合には利用できないことが挙げられます。

4つ目の④通常訴訟ですが,これは一般的な民事訴訟のことです。

メリットとして,滞納者が所在不明であっても,滞納者が期日に欠席する可能性があったとしても,判決に向けて手続を進めることができる点が挙げられます。

他方,デメリットとして,通常の裁判であることから,自らの主張を裁判所に認めてもらうためには,それを基礎付ける法的な書面や証拠を作成して,提出する必要があり,手続的な負担が大きいこと,場合によっては弁護士を訴訟代理人として選任する必要があり,その費用が必要となること,最終的な解決に至るまで時間が掛かることが多いことが挙げられます。

このように,4つの手続にはいずれもメリット,デメリットがあります(なお,ここで挙げたメリット,デメリットはその一部です。)。そこで,管理組合としては,滞納者との話し合いの余地があるのか,滞納者の所在がつかめているのか,最終的な解決までのスケジュール感をどのように考えているのか,弁護士に裁判対応を委任するのかなどの要素を踏まえて,個別具体的なケースに応じて,滞納管理費の回収のために利用する手続を選択することになります。

なお,弁護士に裁判手続対応を依頼する場合には,その費用が発生することとなりますが,その費用の最終的な負担を滞納者とする旨の定め(合意)がなければ,管理組合が負担することとなります。そして,管理組合が弁護士費用を負担することとなった場合,その費用負担を滞納者以外の他の区分所有者へ転嫁することになりますので,管理組合としては,管理規約等において違約金の定めを設けることを検討するべきです。一例として,標準管理規約(単棟型)60条2項においては,「組合員が前項の期日までに納付すべき金額を納付しない場合には,管理組合は,その未払金額について,年利〇%の遅延損害金と,違約金としての弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用を加算して,その組合員に対して請求することができる」(下線部は筆者が付したもの)という定めが設けられています。

以上のような手続を経て,無事,滞納者からの管理費等の回収が完了すればよいのですが,裁判所による判断が出たとしても,滞納者からの支払がないという事態も想定されます。

このような場合,管理組合としては,裁判所の判断を踏まえて,強制執行の手続を行うか否かの判断を迫られることになります。

そこで,次回は,強制執行の手続について,まとめてみたいと思います。