マンションと法(第十二歩)

■滞納管理費

管理組合が滞納管理費の回収のために法的措置(ここでは管理組合が通常訴訟を提起したと仮定します。)を講じた結果,裁判所において,「●●万円を支払え」という請求認容判決が出たとします。この請求認容判決によって,管理組合の滞納管理者に対する私法上の請求権が,裁判所という国家機関によって公権的にも認められたことになります。ただ,現実問題として,裁判所による判断が出たからといって,滞納者から判決の内容のとおりの支払があるとは限りません。

このような場合であっても,管理組合が裁判所で認められた権利を強制的に実現することは禁止されています(自力救済の禁止)。そのため,裁判所において請求認容判決が出たとしても,滞納者が任意に支払わない場合には,判決はただの紙切れとなってしまいます。

そこで,管理組合としては,裁判所において認められた権利を実現するため,別途,強制執行手続を検討することになります。なお,滞納管理費等に係る債権については,区分所有法7条の先取特権の対象となっていますので,担保権(先取特権)の実行手続をとることができます。この手続は,次に述べる強制執行手続の場合とは異なり,確定判決等の債務名義を取得する必要がない一方で,その目的物が「区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産」に限定されていたり,公租公課や抵当権等の登記された他の担保権に劣後するという点には注意する必要があります。

強制執行手続とは,確定判決等の債務名義に基づき,滞納者の財産に対する強制執行を申し立てる手続のことをいいます。

その目的物は,差押禁止財産(債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具などの動産や,給与等の4分の3に相当する部分等の債権)に当たる場合を除き,前述の先取特権の場合のような限定はありません。しかし,実際に強制執行の申立てを行う場合には,その申立てをする管理組合において,滞納者のいかなる財産に対して強制執行を行うのかを特定する必要があります。

この点,管理組合は,滞納者の勤務先や銀行口座(預金を差し押さえる場合には,銀行名だけではなく,支店名まで特定する必要があります。)の情報を保有していないことが多いことに加え,滞納者から任意にその情報を開示してもらうことも難しいことを考えると,独自に財産調査を行う必要があります。

例えば,滞納者の区分所有建物の全部事項証明書を取得することによって,当該区分所有建物に抵当権が設定されている場合にはその借入先が明らかとなりますので,滞納者が保有する銀行口座を特定する手掛かりとなったりします。

とはいえ,全部事項証明書の記載のみでは滞納者の銀行口座を特定するだけの情報までは得られないので,その場合には,裁判所を利用した情報取得手続の利用を検討することになります。この制度は,それまでの財産開示制度の実効性が十分ではないという現状を踏まえて令和2年4月1日に施行された制度であり,一定の要件を満たす場合には,裁判所を通じて,金融機関等の第三者から,その保有する情報の提供を受けることができるという制度です。

この情報取得手続制度が新設される前においても,弁護士が関与している事件については,一定の金融機関では,所定の要件を満たす場合には,弁護士会照会制度を通じて,滞納者が保有する銀行口座情報を取得することができましたが,情報取得手続制度が新設された現在においては,この制度を利用した財産調査を行う機会の方が増加しているのではないかと思います。

このように,判決によって管理組合の請求が認められた場合であっても,滞納者が任意に支払わない場合には,管理組合は,強制執行手続を行う必要があります。そして,この強制執行手続では,その対象となる滞納者の財産を,管理組合において特定するという負担が発生します。そのため,管理組合としては,判決が出た場合においても,即時に強制執行の手続に移行するのではなく,滞納者に対して判決内容に従った支払をしない場合には強制執行手続に移行する旨を伝えた上で,任意に支払うよう求めることを検討すべきと考えます。

今回は強制執行手続をまとめる予定でしたが,思いのほかお伝えすべき事項があったため,区分所有法59条による区分所有権の競売の請求について言及することができませんでした。区分所有法に定められた独自の制度となりますので,次回はこの点についてまとめるとともに,これまでにご紹介した手段以外による滞納管理費の回収方法(滞納者の氏名公表等)の可否についてまとめる予定です。

(弁護士 豊田 秀一)