マンションと法(第九歩)

今回は、管理費等の滞納問題の各論に入ります。内容が盛りだくさんのため、これから3回ほどかけて、各論を見ていきたいと思います。

標準管理規約60条3項は、「管理組合は、納付すべき金額を納付しない組合員に対し、督促を行うなど、必要な措置を講ずるものとする」と規定しています。

そして、管理組合が「必要な措置」を講じるに当たっては、管理費等の管理(債権管理)を、場当たり的に行うのではなく、事前に定められた一定のルールに従って行うことが重要であると考えています。

この点について、標準管理規約別添3のフローチャートにおいても、次のような督促の手順の例が示されており、同様の考えに基づいていると考えられます。

 

1か月目 電話、書面(未納のお知らせ文)による連絡

2か月目 電話、書面(請求書)による確認

3か月目 電話、書面(催告書)

4か月目 電話、書面、自宅訪問

5か月目 電話、書面(内容証明郵便(配達記録付)で督促)

 

上記督促の手順の例では、滞納期間が4か月を経過すると「自宅訪問」や「内容証明郵便(配達記録付)」が追加されています。これは、管理費等の滞納期間が3か月を超えた場合、当該管理費等の滞納が、もはや一時的な要因によるものではなく、恒常的な要因によるものと考えられることを理由としていると考えられます(なお、同フローチャートでは、「過去の実績によれば、失念していたなど一時的な要因で滞納した者は、3か月以内に滞納を解消する」という指摘がなされています。)。

管理組合においては、上記フローチャートの督促の手順の例を参照した上で、管理費等の徴収に係る一定のルールを事前に定め、当該ルールに基づいた債権管理を行っていく必要があります。マンション管理においては、理事会において管理費等の滞納者に対して講じる措置が検討されるケースが多いと思いますが、私の経験上、事前に一定のルールが定まっていない管理組合の場合、法的措置を講じるまでにずるずると時間を要するケースが多いと感じています。この点は、マンション管理業者に管理を委託しているマンションの場合にはより一層妥当すると考えられます。すなわち、マンション管理業者に管理を委託している場合、出納業務の一環として、管理業者が管理費等滞納者に対する督促を行うこととされているのが一般的です(標準管理委託契約書10条1項参照)。しかし、管理業者は、管理費等滞納者に対する督促の全て引き受けるのではなく、管理業者が委託契約の内容に基づき督促をしても組合員が滞納管理費等を支払わない状態が一定期間継続した場合、管理業者はそれ以上の業務を行わず、その後の滞納管理費等の請求は管理組合が行わなければならないことに注意が必要です。前回の記事でも言及したとおり、管理組合は、管理費等の確実な徴収が、管理組合(理事長)の「最も重要な職務の一つ」であることを認識した上で、上記督促の手順を踏まえながら、管理業者との間の役割分担を図ることが重要と考えます。

とはいえ、管理組合が事前に定めたルールに従って督促を行ったとしても、管理費等の徴収が実現するとは限りません。このような場合、管理組合は、法的措置を検討せざるを得ません。

そこで、次回以降は、管理組合が法的措置を講じる際に留意すべき点を見ていきたいと思います。

(弁護士 豊田 秀一)